旦那さんが突然の海外赴任!そんな話を聞かされたら妻は焦り、パニックになるのではないでしょうか。
付いていくのか、行かないのかの判断、お子さんがいれば子どものこと、家のことなど解決しなければいけない問題はたくさんあります。
ここでは、同行する妻の仕事について、どうするのか紹介します。
この問題で今悩んでいる、これから悩むことになりそうという人は先輩駐在妻からの助言と思って読んでいただき、参考にしてください。
もくじ
駐在妻が仕事を辞めざるを得ないケース
はじめに、駐在妻になる人が日本で働いていた場合ですが、どうしても辞めざるを得ないケースがあります。
特に次の3つに当てはまるケースは、自分から辞めると言わない場合、会社側から退職をするように促されるケースもあります。
理由については、後述しますので参考にしてください。
夫の海外赴任期間が不明
1つ目の辞めざるを得ない(退職しなければならない)条件は、「夫の赴任期間が不明」というケースです。
後で詳しく説明をしますが、仕事を休んで海外赴任に同行する場合、一般的には休職という取り扱いになります。
休職のルールは会社によって少し異なるため絶対ということは言えませんが、会社は社員が休職をするとその期間の社会保険料を支払う必要があります。そのため、いつから休みに入り、いつから復職するのかを事前に届け出ることが多いです。
夫の海外赴任期間が不明の場合、いつから復職することができるのかが分かりません。
会社側からすると復職することを前提に休職を認め、社会保険料を支払っているので、いつから復職できるのか不明な人を雇っておくことはできず退職を勧告されるケースもあります。
海外から海外へ転勤の可能性がある
2つ目の理由は海外から海外への転勤があるケースです。
これも理由は上に述べたものと同じで、帰国する時期が分かりにくくなります。
子どもがいる場合、「中学校卒業と同時に母子のみ帰国」「小学校入学時に母子のみ帰国」という選択をすることが決まっているのであれば復職しやすいかもしれませんが、いつまで海外赴任することになるのか未定という場合には妻は仕事を辞めざるを得なくなるケースが多いです。
国の制度上できない
3つ目は、赴任する国の制度上、仕事をすることができないケースです。
近年、インターネットが普及し、オンラインで会議をすることやオフィスワークが可能になったことで、こうした仕事をもらって赴任後も仕事を続けていこうと考えている人がいるのではないでしょうか。
これに関しては、実際にできるのか事前に入念に確認する必要があります。問題になるのが「ビザ(査証)」の問題です。
海外赴任する場合、赴任する夫は「就労ビザ」と呼ばれるものを取得します。これは、赴任先に入国する際に必要になる査証で、観光で訪れる場合にはビザの必要がないところが多いのでビザを取得することはイメージしにくいかもしれません。
しかし、海外で仕事をして収入を得るとなると話が別で、「就労ビザ」と呼ばれるものが必要になる国が多いです。
では、同行する家族はどうなるのかというと長期滞在者という扱いでビザが必要になります。
アメリカを例にすると配偶者のビザは「Lビザ、Eビザ、Jビザ」のいずれかになります。
このビザは働くことはできません。働くためには「就労許可証(Employment Authorization Document)」を取得する必要があります。
夫が勤務している会社によっては配偶者が就労ビザの取得が認められていないケースがあり、事前に配偶者が働くことができるかを確認する必要があります。
このビザに関係する問題は非常にデリケートです。
なぜなら「就労ビザ」は現地で採用され働いて収入を得ることに対しての許可です。
つまり、日本で働いていて収入を得ることについては問題にしていないので、就労ビザがなくても仕事をしていて問題ないことになります。
社会のグローバル化が進んだことによって、海外に居ながら日本の会社の仕事をして、日本で収入を得ることができるようになりました。
ただし、この働き方が絶対大丈夫かというとそうではありません。日本で収入を得ているのであれば、確定申告し、所得税を払わなければいけません。
場合によっては社会保険料の支払いが必要になるケースもあります。こうした諸問題を自身でクリアできれば問題ありませんが、不安ならば就労しない方が安心です。
駐在妻の対応策は3つ
では、駐在妻は仕事を辞めなければいけないのでしょうか。
次に3つの対応策を紹介します。
ただし、全ての会社に整っているわけではないので、対応策ができるのかどうかを会社に確認して対応しましょう。
配偶者同行休業制度(海外赴任帯同休職)を利用する
公務員を含めて多くの会社で採用されている制度が配偶者同行休業制度、会社によっては海外赴任帯同休職(名称は違う場合があります)などと呼ばれている「配偶者が海外赴任に伴って帯同しなければならない場合」に適用される特殊な休職制度です。
この制度はおおむね次の3つの特徴があります。
- 配偶者が海外赴任となった場合に休職することができ、休職期間は無給。
- 日本に帰国後は、その会社に復職することが前提。
- おおむね2年から3年程度の海外赴任に対応。
この制度を利用すれば、帰国後に仕事探しから心配する必要もありませんし、これまで培ってきたスキルをそのまま生かすことができます。
勤務環境は変化している可能性がありますが、知っている環境で仕事を再スタートできます。
駐在妻となった私も、勤務先のこの制度を利用して休職しています。
休職を利用する
2つ目の方法が会社の休職制度を利用するやり方です。
配偶者帯同に関するルールが設けられていない会社では、一般的な休職制度を利用して休職し、同行する方法があります。
この制度の特徴は、先ほど述べた「配偶者同行休業制度」の場合と同じです。
ただし、海外に赴任する期間によっては休職期間を設定することができない場合もあり、適用できるのかは会社の判断によるところが大きいです。
退職する
上に述べた2つの方法が使えない場合には、退職するという選択肢になります。
ただし、退職するといっても「完全退職」ではなく、一時退職という対応をする会社もあります。
なぜそのような扱いになるのかというと「社会保険料」の問題があるからです。
会社側は、休職すると休職期間中、社会保険料の半額を負担しなければいけません。この負担を嫌う会社では、休職制度ではなく、退職をすすめます。
ただし、ただ退職するのではなく、帰国後に復職することができるよう、帰国後に採用枠があれば再度採用試験を設け復職することがしやすいようにしています。
この時の採用試験は、他の人とは異なり特別枠で行われることが多く、採用されやすく、復職後も初任の研修などは免除され、給与水準もやや高いところからスタートできるように準備されています。
退職を考える場合も、このようなルールがないのか、会社に確認することが大切です。
それぞれの制度のメリット・デメリット
では、それぞれの制度にどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
それぞれの制度のメリットとデメリットについてまとめていきます。
配偶者同行休業制度(海外赴任帯同休職)のメリットとデメリット
〈配偶者同行休業制度のメリット〉
配偶者同行休業制度(会社によって名前は異なる場合あり)を利用するメリットは4つあります。
1.復職が保証されている
駐在妻にとって、仕事を辞めてしまうとこれまで培ってきたキャリアや人脈が一気に失われてしまうことになります。
しかし、この制度であれば、帰国後に同じ会社に復職することができ、仕事の内容もある程度わかった状態で仕事を再スタートすることができます。
さらに、就職活動を再度行わなければいけないという手間も省くことができます。
2.給与体系が維持される
休職制度のメリット2つ目が、給与体系が維持される点です。
退職して再就職するデメリットの1つに給与が下がる可能性が高い点があります。休職制度の場合、多少の減はあるかもしれませんが、ほとんどの会社で現状維持の措置が取られます。
役職に関しては変わる可能性があるものの、休職後も同じ給与体系から始まるのはメリットです。
3.社会保険料の半額が負担してもらえる
通常、社会保険料は会社側が半分、労働者が半分支払うようになっています。
休職期間中は労働者側の収入はなくなりますが、会社側は社会保険料を支払い続けなければなりません。
これが続いていると将来的にもらうことができる年金の額が変わってきます。
自分で社会保険料をすべて支払うとなると大きな出費となるため、休職期間中も支払ってもらうことができるのはメリットです。
4.勤務先の変更手続きをする必要がない
4つ目のメリットが、勤務先の変更をする必要がない点です。
最近は、さまざまなところで勤務地を記入することになります。
クレジットカードの契約や住宅ローンを組んでいる場合にも勤務先が必要になります。
仕事を辞めてしまうとこれらの変更をしなければいけなくなります。
インターネットの普及で簡単に変更することができるものもありますが、それでも変更手続きは面倒です。
〈配偶者同行休業制度のデメリット〉
配偶者同行休業制度はメリットばかりではありません。デメリットもあります。次にデメリットについて3つ紹介します。
1.休業期間の変更がしにくい
配偶者同行休業制度のデメリット1つ目は休業期間の変更がしにくい点です。
休業制度を利用できるのは復職することが前提であり、休業期間を申請する際にはいつから復職する予定なのかを伝えておく必要があります。
休業期間の延長を認めている会社もありますが、事前に確認をしておく必要があります。
したがって旦那さんの仕事が「駐在期間が決まっており、帰国の時期がある程度出発段階でわかっている」「子どもの教育を理由にある時期が来たら母子だけで帰国する予定である」このような状況であれば、休業期間を設定しやすいですが、赴任期間が不明、次の転勤も海外になる可能性がある場合には使いにくい制度です。
2.現地での就労が制限される場合もある
次に就労の問題です。
休業をしているということは、就労に関する制約を勤務している会社から受けることになります。
例えば、副業が禁止されている仕事に就いていれば、他の仕事をすることはできません。
したがって、海外赴任中に「時間が空いているから」と言って他の仕事をするのはルール違反になるケースがあります。
実際、私が勤務している会社では配偶者同行休業制度が設定をされていますが、その適応条件の中に「慣れない土地での生活を支え、安定させるために同制度がある、本制度の適用を受けるものは、現地での就労を認めない」という文言が付いています。
したがって、駐在妻となってからは現地で就労はしていません。
日本人学校のお手伝いを依頼されるケースがありますが、ボランティアとして参加しており、報酬は得ていません。
配偶者の就労については、旦那側の会社(駐在を命じる会社)から認めていないケースも多く、その理由として「妻や家族の生活を支えるために配偶者手当や児童手当を駐在の手当てとして支給している。」と挙げているところがあります。
このように配偶者同行休業制度があると現地で稼ぎたいという場合には制約が付きます。
3.社会保険料の支払いが月に数万円
3つ目が社会保険料の支払いです。
駐在妻になっても休職している以上は、社会保険料の支払いが発生します。
負担額は月に数万円程度ですが、会社が負担している部分の半分は自己負担となってしまうために支払いが発生します。
将来的な年金額に関係してきますが、長期の赴任ともなれば負担の金額が多くなり、3年以上休職していると合計で100万円近い支払いをしなければいけなくなります。
休職をするメリットとデメリット
配偶者同行休業制度がない場合、一般的な休職を利用ができる場合には、休職の選択をします。
基本的なメリットとデメリットは、配偶者同行休業制度を利用した場合と同じですが、ここでは違う部分を紹介します。
〈一般的な休職のメリット〉
1.配偶者同行休業制度に比べると制約が少ない
一般的な休職のメリットは、配偶者同行休業制度を利用するよりも制約が少ないという点です。
配偶者同行休業制度は、海外赴任する駐在員についていくことが前提ですが、休職の場合、途中で一時帰国し、日本で滞在をすることになっても休職を継続できる可能性が高いです。
昨今の新型コロナウイルスの影響で、家族のみ日本に帰国や帰国した後、なかなか現地に戻ることができないという事例もあります。
このようなときに柔軟に対応できるのが一般的な休職制度です。
2.会社との交渉次第で柔軟に対応
休職は配偶者同行制度に比べると制約が少ないことが多いので、会社との交渉次第では柔軟に対応してもらうことができます。
会社としてもあまり前例がないケースとなる場合が多く、私の周辺にも「まず2年間休職し、その後は半年ごとに相談する」というよい柔軟な対応をする会社もあれば、「2年間のみ認める」それで復職できない場合には、自己都合扱いで退職とするという誓約書を書かされた人もいます。
前例がない場合は、休職する人と企業で相談しながらルール作りをすることになるので、よくなるケースもありますし、悪くなるケースもあります。
〈一般の休職をするデメリット〉
1.分限処分の取り扱いとなるケースもあり
休職は、「休職する人が職務を遂行する能力がない」という扱いで出されるケースがあります。
この場合、最悪分限処分という扱いとなり、減給や降級の対象となります。
配偶者同行制度であれば、会社が給与や身分などを休職期間中補償してくれますが、一般の休職の場合、このような補償がないので、復職したときに不利益を受ける可能性があります。
2.制度の変更に振り回されたケースも
休職をすると、身分上は会社に所属したままとなっているため、会社のルール変更に振り回されるケースもあります。
実際に、私と同じ場所に駐在妻となって来ていた奥様がルールの変更に振り回されました。
その方は、公立小学校の教員をされていた方でしたが、配偶者同行制度がなかったため、退職して旦那さんについて赴任してきました。
しかし、赴任期間中に奥さんの所属していた県で配偶者同行制度が生まれ、県の教育委員会から無試験、面接のみで復職できることを通知されました。
結果的に、旦那さんが帰国する少し前に帰国して復職の試験を受けて、復職しました。このようにルールの変更に伴い振り回されることになりました。
退職をするメリットとデメリット
最後に駐在妻となるため仕事を辞めてしまう選択をした場合のメリットとデメリットについて紹介します。
〈退職をするメリット〉
1.赴任期間を気にする必要がない
退職したときのメリット1つ目が、赴任期間を気にせず過ごすことができ、精神的に気楽な点です。
休職をするとどうしても仕事のことが気になります。
私自身も、現在休職していますが、帰国後のことは考えてしまいます。
旦那の仕事は、一定時期まで来たら帰国になる予定ですが、新型コロナウイルスの影響もあり、駐在が伸びてしまう可能性も0ではありません。
そうなると私は子どもを連れて帰国することになり、帰国後の生活に不安を抱えています。
今思えば、仕事を辞めてしまったほうが気楽に海外での生活をすることができたのではと後悔することもあります。
2.現地での就業に制約が少ない
2つ目のメリットは、現地での就業に制約が少ないという点です。
前述したように、旦那の会社側から就業を制限されていれば働くことはできませんが、海外でしか経験することができないようなアルバイトをしてみたり、現地で学んだ言語力を生かして通訳として仕事をしてみたりということもできます。
駐在の経験をライターとして出版社に送り、それをもとに小遣いを稼いでいるような人もいます。
滞在しているビザで働くことができるかや現地での税金の支払い方などクリアしなければいけない問題もありますが、日本で経験できない仕事をすることができるのもメリットと言えます。
〈退職をするデメリット〉
1.帰国後、就職活動をする必要がある
仕事を辞めてしまうデメリットは、帰国後にまた就職活動から再開をしなければいけません。
その時の社会情勢や保有している資格によりますが、業種によっては再就職が難しい場合もあります。
実は、これはデメリットのように見えますが、メリットもあり、海外から日本に帰国をすると最初の1,2か月程度は非常に忙しい時期になります。
私も一度経験していますが、船便の荷物が届いていない状態で生活が始まり、そこで復職まですると帰国直後からすぐに仕事を始めないといけない状態になります。
途中で、船便が届き、自宅が荷物だらけになるという悲惨なこともありました。
こう考えると退職しておけば、帰国後のバタバタした状態が落ち着いてから仕事を始めることができたと思います。
2.生涯賃金としては減少する可能性もある
退職と休職の大きな違いは、生涯賃金です。こればかりは仕事を辞めた時に絶対デメリットになります。
帰国後に再就職することができたとしても、最初からしていた仕事に比べれば、賃金は安くなってしまう人がほとんどではないでしょうか。
そして、仕事をしていた期間も短くなってしまうため、もらうことができる退職金も少なくなります。
結果的に生涯賃金としては、休職よりも退職を選択したほうが安くなりやすいデメリットがあります。
3.年金も下がる可能性が高い
最後に気になっている人が多い年金です。自分が高齢者になったときにもらうことができる年金の金額ですが、これも退職をすると下がる可能性が高くなります。
生涯賃金と連動している部分があるので、納めることができた保険料に対してしか、年金を受け取ることができません。
また、もう1つ気をつけておかなければいけないのが年金の加入期間です。
仕事を辞めている期間は、国民年金に加入することになり、仕事をしているときにはそれぞれの社会保険料から賄われます。
退職と就職を繰り返していると、年金の未加入期間が発生する可能性があります。
海外いるとそこから支払うのは難しいですが、後からでも収めることができるので、年金手帳などをもとに加入期間を確認しましょう。
まとめ
ここまで、夫の海外赴任に伴う妻の仕事について記述しました。
大きく休職と退職の2つの選択肢になりますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。
また、働きたくても働くことができない制約が付くなど、行先によって変わってしまうのが駐在妻の宿命です。
実際に海外にいると働いている奥さんは少なく、筆者の周りで見ていると、肌感覚で全体の2割程度いるかどうかです。(アメリカの場合)。
そして休職制度を利用している人が2割程度、退職したまたは専業主婦から駐在妻となっている人が6割程度の感じです。
アメリカでは、働くためのビザの取得が難しく、それが配偶者の働きやすさにも関係しています。
ただ、働く意欲を失っているかというとそうではなく、日本に戻ったときに就職することができるように駐在中に語学スキルを身に付つけたり、通信教育などを利用して資格取得をしたりと働くことができるように準備をしている人はたくさんいます。